遺伝子・DNA・RNAについて学ぶ

生物学的な特徴や性格が親から子へ、子から孫へ伝わる。
この伝達を成り立たせているのが遺伝である。
また、この特徴は情報だから遺伝情報と呼ぶ。
遺伝情報を伝える1つの単位を遺伝子という。
遺伝子は細胞がタンパク質をつくるときのレシピのようなものである。

ヒト遺伝子は核の中にある

ヒト遺伝子はどこに存在するのだろうか。
人体は筋肉、皮膚、血液など約60兆もの細胞で成り立っている。
この細胞のほぼ真ん中に核があり、核の中にヒト遺伝子の一式ゲノムがある。
このゲノムも箱のようになっていて、その中に23対(46本)の染色体がある。
染色体という名前は色素を加えておくと細胞が分裂しているときにこの部分が染まって見えることに由来する。
染色体という箱を開けると長いDNAがコンパクトに梱包されたクロマチンと呼ばれる単位が見えて、さらにその中にいくつかのヌクレオソームが見える。
ヌクレオソームはクロマチンを作る一つの単位でヒストンという丸いタンパク質に糸状のDNAが巻き付いたものである。このDNAが遺伝情報を運ぶ分子なのである。

生物の遺伝子はDNAであるが、細胞に存在する全てのDNAが遺伝子という訳ではない。
実は細胞に存在する全DNAの約3%が遺伝情報を記録している遺伝子だが、残りの97%は意味不明の塩基配列なのである。

DNAとRNAの構造

DNA(Deoxyribo Nucleic Acid:デオキシリボ核酸)とRNA(Ribo Nucleic Acid:リボ核酸)はどちらもリン酸、糖、塩基の3つの部品から出来ている。
この3部品が1単位を構成し、これが100、1000、10000万個と繋がってDNAやRNAが出来ている。

DNAやRNAのようにある単位が多数繋がってできた分子をポリマーと呼ぶ。
ポリマーと構成するリン酸、糖、塩基といった個々の部品をモノマーという。

遺伝情報は塩基の並び方である。
DNAでは、糖はデオキシリボース、塩基はアデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、チミン(T)
RNAでは、糖はリボース、塩基はアデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、ウラシル(U)

また、DNAは二本の鎖がからまった螺旋として存在するが、RNAは一本だけで存在する。
DNAの二本の鎖は、それぞれの鎖についている塩基が水素結合によって対を形成して繋がっている。
どのような塩基でも対をつくるのではなく、アデニンはかならずチミンと、グアニンは必ずシトシンと対を成す。
このように対を作ることを塩基対の形成と呼んでいる。DNAは必ず二本鎖になっていて、一方の鎖のシークエンス(塩基配列)が決まれば、
もう一方の鎖のシークエンスは自動的にきまる。このときお互いのDNA鎖は相補的であるという。

DNAの役割は複製と転写

複製

複製とは二本鎖DNAが自分自身のコピーをつくるプロセスである。
なぜ、複製するかというと、分裂によって出来る新しい細胞にDNAを供給するためだ。
複製のプロセスは二段階になっている。
第一段階では、からまった二本のDNA鎖の一部をほどいて一本の鎖とすることである。
これを実行するのがDNAヘリカーゼという酵素である。
次に、一本鎖になった二本のDNAそれぞれを鋳型にしてDNAポリメラーゼという酵素が二本鎖の新しいテープを二組作成する。
つまり、複製によってDNAが二倍に増えたのである。

転写

転写とはDNAに相補的な塩基配列を持った一本鎖のRNAができることである。
転写を担当するのはRNAポリメラーゼという酵素だ。
転写されてできた一本鎖のRNAはDNAの遺伝情報を正確にコピーしている。
遺伝情報という最も大事なメッセージを担っていることからこのRNAをメッセンジャーRNA(mRNA)と呼んでいる。

mRNAは細胞内を移動してリボソームに辿りつく。リボソームとはアミノ酸とアミノ酸をつなげてタンパク質を組み立てる工場である。
リボソームに結合したmRNAはアミノ酸がどのような順番に並ぶべきであるかを指示してタンパク質ができる。
しかし、mRNAによって指定されたアミノ酸がリボソームまで歩いてくるわけではない。
アミノ酸をリボソームまで運んでくる専用の分子が用意されていて、これをトランスファーRNA(tRNA)という。
20種類のアミノ酸すべてに対応するtRNAが存在する。

このように遺伝情報の流れはDNA→RNA→タンパク質の一方向であり、このことをセントラル・ドグマ(中心教条)と表現されている。
だが、RNAを遺伝子として持つレトロウイルスでは、RNAからDNAを合成する逆転写が行われている事が発見されている。

三種類のRNAがある

DNAから転写されてできたRNAがすべてmRNAなのではない。
まず、DNAが転写されてかなり長い未熟なRNAができる。
このRNAをリボヌクレアーゼというはさみが切断して短くしたり、塩基を追加するなど加工が施されてmRNA、tRNA、rRNAの三種類のRNAが作られるのである。
mRNAはRNA全体の1%、tRNAは約5%、残りがrRNAである。
rRNAはリボソーマルRNAの事で、多くのタンパク質と一緒になってリボソームを作っている。

一個の塩基が変異しただけで病気が発生する

DNAは変化する、この変化を変異(突然変異)という。
DNAの中の一個または多数の塩基対がほかの塩基対に変わるのが変異である。

変異の長所は進化である。変異が遺伝子に積み重なり新たな生物が誕生してきたのである。
逆に短所は、癌の発生や病気の原因になっていることである。
それまで統制のとれてきた細胞の成長と増殖のリズムが変異によって崩れ限りなく増殖するようになる、これが癌の発生である。

細胞の成長や増殖は自動車の運転に例えると、アクセルに相当するのがオンコ(プロトオンコ)遺伝子であり、オンコは「癌」を意味するので癌遺伝子とも呼ばれる。
これはオンコ遺伝子が癌を発生させる遺伝子であると誤解されやすいが、じつはオンコ遺伝子は正常細胞を成長させ、増殖させるという役割を果たしている。
一方、ブレーキに相当するのが、癌抑制遺伝子である。
これは文字通り癌の発生を抑制する遺伝子でこれが正常に働いている限りオンコ遺伝子が破壊されても癌は発生しない。
だが、オンコ遺伝子と癌抑制遺伝子の両方に変異が発生すると、細胞は本来の成長・増殖という道を踏み外し癌へとひた走る。
このように癌とは遺伝子の病気なのである。

変異を防ぐDNA修復酵素

変異を防ぐための有効な対策を立てるには、まず変異の原因を知ることである。
変異には内的なものと外的なものがある。

変異を発生させる内的な原因

変異を発生させる内的な原因はDNAを複製するさいに発生するエラーである。
どれくらいの頻度でエラーが発生するかというと、一回の複製、すなわち約30億個の塩基対のコピーに対して約3個である。
だが、通常このエラーはDNA修復酵素という酵素が修正している。
この酵素が正常に働いている限り健康への被害はないのだ。
DNAに発生したダメージを管理する司令塔はp53という特別な癌抑制タンパク質であり、これを作らせるのがp53遺伝子で癌抑制遺伝子で最も有名なものだ。
このp53はDNAに起こったダメージの程度をみて、修理するか、修理せずに細胞を自殺させる(アポトーシス)のかを判断している。
この大事な指令塔が壊れるなどすると、ダメージを受けたDNAが修復されないばかりでなく、複製されてしまい沢山の変異が発生し、これが新しい細胞に分配される。
こうして変異を持った細胞は癌細胞に変身を遂げてしまう。

ならばp53の働きを高めれば癌にかかりにくくなるかといえば、マウスの実験では確かに癌には罹りにくくなっている。
しかし虚弱体質となってしまった。
何故かというと、体内には皮膚や骨などの組織を補充する未分化な幹細胞があり、これから分化した細胞が次々に生じる。
しかしp53の働きが高まると、幹細胞の分裂まで妨げられて虚弱となってしまうのだ。

変異を発生させる外的な原因

外的な原因は食品添加物、タバコ、薬、環境汚染物質などである。これらは、化学的、物理的、生物的の三つに分類できる。

科学的な変異・・・ベンツピレン、アスベスト、ダイオキシンなどの変異原物質にさらされることである。
物理的な変異・・・X線や紫外線、放射線などの電磁波にさらされることである。X線の照射によって一個の電子がDNAに与えられ、ここからDNAの切断が始まる。
また、紫外線を照射すると、隣接するチミンの間で化学反応がおこってくっついてしまう。これをチミン・ダイマーの形成という。
生物学的な変異・・・B型肝炎やC型肝炎、子宮頸がん、白血病などの発癌ウイルスの感染である。